「ちょっと。どこ行く気よ」
『美術室』
「やだ。行かせない」
桐島さんはそう言って、僕の行く道を邪魔する。
『…邪魔』
「絵見せてくれたら退くよー」
『無理。未完成のものは見せない主義だから』
そう言って僕は、彼女に盗られないうちにさっさとポケットにしまいこむ。
「えー。あたし朝原くんの絵が好きなのに」
『…なんで』
「なんか全体的に淡くて切ない感じなんだよ。
そこが好き」
…淡くて切ない感じね。
感情の赴くままに描いてる絵を、
他人に評価されるのは気恥ずかしかったりする。
そんな風に受け止めてもらってるのか、と。
「ホント、美術部の部長は格が違うよねー」
『…それはどーも』
「だから、お願いがあるの」
彼女は真剣な目を僕に向けてきて。
「あたしを、描いて」
……意味が分からないんですが。