それから・・・高校に入学してまもなく、一通の手紙が俺の元にきた。休日のぼんやりとした時間だった。

「はやとっ! 手紙!」

 台所で水を飲んでいた俺に母さんが手紙を投げて寄こした。手紙は変化球に落ちる。

「投げるな!」

 母さんに怒るが、無視して洗濯物を取り込み始めた。コップを台所の流しにおいて、拾い上げて宛名を確認した。

「あ―――誰だ? 野崎雅志・・・って誰だったかな」
 
 独り言を言いながら、自分の部屋に戻る。
 思い出しながら、封筒をゆっくりと手でちぎった。少し、中身もちぎれた。

「なに、ああ、あの人ね。『早人君と会ってから進也は変わりました。よく話すし、素直になりました。少しずつね。聞くところ、進也と口論したらしいね。あの日から「絶対、あいつには負けない」って、空手を習い始めたんだよ。今度は勝つって』やべえ」
 
 他にも、雅志さんの結婚観に対することが書いてあった。もう三十歳超えて、焦っているみたいだ。そういえばあの日、女に振られたって倒れていたよな・・・。
 それから『またいつか会いましょう』と雅志さんは締めくくっていた。お決まりか。
 最後の行には進也の字かわからないが、雅志さんとは別の字で『十日、昼に家に来てくれ』って書いてある。

「なに・・・明日じゃねえか!もっと早く寄こせよ、ま・・・いいか・たまには会ってやる」

 しばらく考えて、明日が祝日だけど学校があることに気づいた。
 また休ませるのか、しょうがない兄弟だよ。高校は単位制なんだぞ。母さんにばれたらまた怒られる。でも・・・

「あいつには何の変わりもない休日だから仕方ないんだけど」

 少し開けてある窓から微風が流れ込んだ。風は暖かかった。もう冬も終わって春らしくなってきている。
 そう実感させられた。草花も芽を出して、そろそろカエルも目を覚ますんじゃないのかな。あいつも覚めだしたことだし。

―――だめだ。二度寝しないように、叩き起こす。でも、空手がな。けど、俺はあいつに勝つ。俺も強くなって。待ってろよ。明日は負けると思うけど、その次が俺が勝つからな。だから、お前も俺に勝てるように、強くなれよな。
 暖かく、眠くなった目は段々としぼんできてそんなことを思った。机の前に座って顔を伏せた。