昔から、優等生だとか完全無欠だとか言われてきたけれど。『優しい』と言われたのはこれが初めてだった。
俺が、優しくなんかないことは自分でも分かっている。
だから、そんな言葉を素直に受け止めるなんてことは容易なことじゃない。
「いいえ。始さんはとっても優しい人なんですよ」
彼女が俺の何を知っているのだろうか、と心底疑問に思うが。
たとえそれが、彼女の自惚れだとしても悪い気がしないのは何故だろう。
「…風邪ひかれても、責任取らないよ」
「それは心配無用です!私は、始さんに会うためなら無敵なのですっ」
彼女はきっと嘘つきだ。
さっきから赤い顔をして、フラフラと足取りがおぼつかない癖に。
俺は、彼女に熱があることに気付きながらも、それに気が付いていないフリをした。
ほら、全然優しくない。