「…『彼氏』かぁ……」
美空はため息混じりに呟いた。
「そんなに簡単に…忘れられると思う?」
今度は、俺の目を見て。
「……バカなお姉ちゃんだよね…」
美空は俯いて、涙を一生懸命堪えていた。
「…美空。聞いてくれ。俺達……」
「いいの!言わないで!」
ポケットの中の戸籍謄本を握ったとき、俺の言葉を美空が遮った。
「海都の気持ちは…わかってるから。もうあたしじゃダメだってわかってるから。
忘れるから…ちゃんと『海都のお姉ちゃん』に戻るから。
だから…もう少し時間をちょうだい…?」
美空の頬を、大粒の涙が伝っては落ちた。
「ごめん。ちょっとトイレ…」
美空は泣き顔を見せまいと、1階のトイレへと駆け込んで行った。
ポケットの中で握られたままの戸籍謄本が、クシャッと虚しい音をたてる。
…違うんだよ、美空……。
俺は髪をグシャグシャと掻いた。
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