「あれはないよな~」
「いやいや、お前のほうがないわ」

哲也は未だに少し不満だった。マニュアルだから仕方ないのかも知れないが家にいるときの美鈴もマニュアル通りに作業をこなす。哲也が何か違うことをしようとすると必ず次に来る言葉が、

「康志さんに言われてますから」

となる。今となっては反論する気力も無くなってしまった。だから哲也は常に親が敷いたレールの上を進んでる感覚があった。

「とりあえずさ何か持ってきたら?」

泉がまだ不満そうな哲也をなだめた。実際のところ哲也は店員のことなど大して気にしてなかった。店員と美鈴の行動を重ねてしまい自分の頭の中で考え事をしていたにすぎない。でも、このことを誰にも相談しようとも思わなかった。今は高校の哲也のほうを演じていかなければならない。

「あいかわらず手際がいいな泉ちゃんは」

哲也はそう言うと、長原を促した。