部屋から出るといつもの如く朝食の用意が既に出来ていた。康志と貴美がいないことだけが幸いで二人がいる時は絶対に食べたくはない。

「康志さんは本日早朝からお出かけになられました」

席に着くと美鈴は必ず康志の状況を報告してくる。哲也にとって朝からアイツの用事など聞きたくないのだが何度言っても美鈴は辞めようとしない。だから今は完全に無視することに決めている。

「見なりからして恐らくゴルフかと思われます」
「へぇ」

康志は裸一貫で会社を立ち上げ今や地方にまで支社を置くまで規模を拡げた。しかし、そのせいもあってガキの頃から康志と遊んだ記憶が無い。だから哲也にとって父親の有り難さというか偉大さが理解出来ない。母親が亡くなっても仕事に忙しいのは理解を示していたが、ある日社長職を退陣したかと思ったらすぐに貴美を連れて来た。そのせいもあって今は理解すらしようとしなくなってしまった。

「今日はもう行くよ」
「はい、畏まりました」

無意味なほどデカイ玄関から出ると哲也は家とは違った顔を見せる。父親の事など誰も知らない矢ヶ崎高校に行く事で哲也は自分という存在を再認識出来る。