「あのっ・・・すいません。」

「・・・。」

「ごめんなさい。私がボーっとしてるから・・・。」

「いや、僕の方こそ・・・変なこと聞いちゃって・・・。」

とりあえずまた歩き出した私たち。

さっきまでとは異なり、会話のない帰り道。
それがずっと続いた。バスの中でもずっと何も話さなかった。そしてそのまま盛岡駅に着く。

≪何か言わなきゃ・・・。≫

そう思って焦っていると、いきなり腕を掴まれた。

「ちょっと・・・まだ帰らないで。」

その力からは、優しさは微塵も感じられず、何かへの執着のようなものを感じた。

≪危ない・・・!!≫

そう直感した私は、とっさに手を振り払い、声をあげた。

「痛いっ!」

すると彼は戸惑った様子で、その場に立ち尽くしていた。そんな彼をこれまでとは別の人を見るような目で見た。牽制するような目で。

「僕はただ・・・。」

「・・・。」

つい一時間前まで楽しかったのに。
ずっと好きだったのに。

でも、そんな感情よりも、さっき感じたモノが怖くて仕方なかった。

それは、ただ私が『男』というものを知らないだけなのかもしれない。

だけど私はまだそんな関係になりたいと思っていたわけじゃない。

私はそのまま「さよなら」と言って、家に帰った。