泣いている長野の顔を裕は見ることが出来なかった。長野が会いたくないことを希望していたことは親父から聞いていた。でも、何か理由があるはずだと思っていた。会って話せば解るはずだと自己解釈していた。しかし、いざ会ってみると何も言うことが出来ない。

「会いたくないことは知っていた」

裕は意を決して話し出した。

「何か理由があるはずだと思っていた」
「…うん」
「会いたくないと言われてたけど、自分勝手だけど、どうしても会いたかった」
「…うん」
「今日長野に会ってホントは沢山話したいことがあったけど、何から話していいか解らない」
「…うん」
「ごめんな。今日はこれで帰るけどまた来ていいか?」

裕はそれだけ伝えると長野の顔を見た。長野は未だに涙を流している。返事はない。

「じゃあ、俺行くわ」

裕はベンチから立ち上がると笑顔で長野に言った。それだけが裕に出来る精一杯のことだった。

「裕くん待って」

歩き出そうとした裕を長野は呼び止めた。

「駅まで一緒に行っていいかな?」

裕は振り返ると先程までと違って長野は泣いていなかった。その顔は小学校のときに見たあのままの顔だった。