ベンチに座った裕は目の前にいる長野の顔を直視ことが出来ない。時折、長野の顔を見るが長野は無表情のまま裕の顔を直視している。長原たちはベンチから遠ざかった場所でとまっていた。

しばらく静寂があった後、長野が裕に言った。

「久しぶりだね」
「うん、久しぶり」
「元気にしてた?」
「うん、」
「今日はびっくりしたよ」
「うん、いきなり来てごめん」
「今謝ってもしょうがないよ」
「そうだね」
「良く私がいるってわかったね」
「広告」
「広告?」
「縁日の案内の絵を見てここにいると思って来た」
「それだけで?」
「どうしても伝えたいことがあったし」
「…」
「あの時からずっと思っていたんだ」
「…そっか」

長野はそれ以降何も言わなかった。裕も続きを言うことが出来なかった。永遠と思われる時間が裕の中で経過しようとしていた。長野は依然、裕の顔を見ている。裕は正直躊躇していた。長野は裕のそんな顔を見て少し笑うと、

「泉君はあれから変わってないね。顔を見ればわかるよ」
「そうかな?」
「…で」
「ん?」
「私が会いたくないって知ってるでしょ?」
「うん」
「ならどうして?」

裕は何か言おうと長野の顔を見た。長野は先ほどとは違って泣いていた。