長原が長野だと思うと言った女性は車椅子でノートに何か書いている。

「美樹?」

宮田が長野と思われる女性に声をかけた。長野は声がしたほうを見ると驚いている。裕はじっと立ち尽くすことしか出来ない。声を出すことが出来ない。

「久しぶり、俺の事わかる?」

長原は長野に駆け寄った宮田の後ろから声をかけたが、長野は何もしゃべらない。

長い沈黙が裕たちを包んだ。宮田が何回も話しかけ長原は何も言わず長野の車椅子を押し土田はカメラを回している中、裕は後ろからついていくことしか出来ない。あれから5年話したい事、伝えたいことは沢山あると自分では思っていた。あれも話そう・これも話そうと昨日は思っていたのに、いざ目の前にすると何も話すことが出来ない。話すどころか歩く足取りが重く4人からどんどん距離が離れていく。

「泉ちゃん」

土田が裕のそばに寄ってきた。

「話したいことがあるんじゃなかったのかよ」
「ああ、」
「泉ちゃんが行動しないと。俺は長野さんと接点がないから手伝うことは出来ないし、こういうのは自分でやらないと」
「ああ、」

裕は土田の言葉に答えることが出来ない。すると、土田は裕の胸ぐらを掴み

「いい加減にしろよ!あの時言った言葉はどうしたんだよ!」

土田の顔はいつもの顔とは違って真剣だった。土田の声が大きかったのか先に歩いていた3人が振り返った。すると、今まで何も話さなかった長野が隣に歩いていた宮田に向かって

「泉君と2人にさせてくれないかな」

と言った。

「キミ!何してるのちょっと長原くんと変わって」

宮田に引っ張られた形になった裕は長原と変わり長野の車椅子を押して歩き始めた。長原たちは距離をとり後ろからついていく。

「ここでいいよ」

長野が指定した先は途中にあったベンチだった。裕はうなずくとベンチに向かって進んでいった。