家に帰ると、光司と優美がテレビを見ていた。様子を伺ってみたが光司の機嫌はよさそうだ話すなら今しかない。

「ちょっと相談があるんだけど」
「おお、なんだ?」

光司は依然テレビに集中している。ブラウン管には野球が放送されており、光司の応援するチームが優勢でさらに追加点のチャンスをむかえようとしている場面だった。

「長野のお父さんに会いたいんだけど?」
「長野さんのお父さんに?」

突然の裕の要求にさすがの光司も振り返った。

「昨日、言ってただろ?夢ヶ咲に出張に行って長野のお父さんに会うって。俺も一度会えないかな?」
「ということはお前も夢ヶ咲に来るということか?」
「あれから長野のお父さんにも会ってないし、長野もどうしてるかわからないし、都合つけてくれないかな?」

裕のお願いを聞いた光司はしばらく黙ってしまった。テレビは光司が応援しているチームがホームランを打ったが光司はテレビに顔を向けることなく、裕の顔をジッと見ている。その顔はなぜか怒っているように裕には思えた。すると、

「兄のお願い聞いてくれない?」

優美が光司にお願いする。しかし、光司は優美の顔を見ることなく

「ダメだ。」

と言った。語気には今まで聞いたことがないほど強い口調だった。仕事人間の光司が会わしてくれる可能性が低いことは予想していたがここまで、強く否定されるとは裕にも予想できなかった。

「なんでだよ。久しぶりなんだし会わしてくれても良いじゃん」

思わぬ返答に裕の口調も強くなる。しかし、光司は一切理由を言わず。

「お前を二度と長野さんに会わすことは無い。それは向こうも望んでいることだ。だから俺は父親としてお前の要望を許可することはできない。」

そう言うと、光司は自分の部屋に行ってしまった。裕は呆然と立ち尽くしてしまった。

「向こうも会いたくない?どういうことだ?」

部屋に戻った裕は光司が言ったことを胸の中で繰り返し呟いていた。