彼の看病が効を奏したのかは知らない。
 彼女の風邪が良くなったのは二十七日だった。というわけで三日遅れた彼等のクリスマスはその日に厳かに行われた。
 彼女は料理の腕を奮い、彼は相も変わらずビールを飲んでいる。
「ガクー! 完成! 見て見てぇッ!」
 彼女が持ってきたのは、純白に赤が映えるホールのデコレーションケーキだった。
 時刻は八時。テーブルには、チキン、シーザーサラダ、そしてよく冷えた有名なスパークリングワイン。流石に白であったが。
 ケーキを置いた彼女は、珍しく彼の隣に座り、彼にシャンパンを渡す。
「え? 僕が?」
 彼はそう言ったのだが、彼女は笑顔で返すだけ。
 何とか開けることに成功し、彼等はワイングラスでそれを分け合って飲む。
 実に良い夜だった。外は深々と冷え込んでいたが、そんなことは関係ない。
 世間はクリスマスなど遥か昔だといわんばかりに正月に向けて大忙しといった状況だったが、そんなこともどうでもいい。ただその瞬間が愛しいと思える時間帯がこの世には確かに存在するのだ。それは温かく、まるで美しいクラシックに初めて耳を傾けた瞬間のようでもある。
 彼等が寄り添ってシャンパンをカルピス割りで飲んでいると、外に白いものがちらつきはじめた。
 雪。
 今年初の雪は、彼等だけにホワイトクリスマスを授けてくれたのだ。
「綺麗……」
 彼女は恋する乙女のような瞳で小さな窓から見える雪を見ている。
「うん。綺麗だ」
 彼も続く。もっとも彼は彼女の事を言っていたのだが。
「ねえ? ガク?」
「ん? 駄目。風邪が治ったばっかりだろ?」
「少しだけだから! ね?」
「……んー。ちょっとだけだよ?」
「ありがとう!」
 彼女はそう言うと立ち上がってジャンプした。彼は慈愛の念を隠し切れず、笑顔で彼女の手を取る。