そうこうしてるうちに、映画の時間が迫っていることに気が付く。
 彼の使い古した時計には、始まる十分前と長針が示している。彼は重い腰を上げ、ぽつりぽつりと入ってくる客に倣い、彼等の後を付いていった。
「とりあえず観よう。観れば少しはマシになる筈だ……」
 彼はそう思っただけだが、その言葉が口からこぼれているのには気付いていない。 仄暗い映画館特有の場内に入り、自分の席を見つけ周りを見渡すと、夏前に公開だった筈だったが、概ね席は埋まっているようである。
 特にこの映画館は広い訳ではないのだが、それにしても平日にこれだけ人が入ってるのには驚きを隠せない。
 何はともあれ、自分の席を確認すると、彼は、余り大きくもない席に、一応の落ち着きを見せる。
 そして、しばし目を瞑り、ただ、待つ。