部屋は暖かく、彼に取っては暑いくらいだった。
 しかし、仕様がない。しかも、汗を掻けば、熱は下がるもの。
 彼は、彼女の手を掴んでベッドから下ろすと、自分の汗を拭った。
 そして、彼女を座らせると、彼も座りお粥をよそってあげる。
 お玉を鍋に潜らせると、何故だかフルーティーな南国の果実的な匂いがしたが、それについては別段気にしないことにした。「はい!」
「有り難う!」
 受け取りながら笑う彼女を見ると、顔はまだ赤かった。
 ……熱がまだあるんだ。
 彼は切なくもあったが、直ぐさま自分の茶碗にもつやつやと輝くそれを流し込み、そして、スプーンを持って放った。
「それでは……」
「「いただきます」」
 二人同時に口に運び、
「「ゲホッ! ゲホッ!」」
 やはり、二人同時に咳込む。
「……ねえ? ガク? 何入れたの?」
「……砂糖」
「ガクの家では、砂糖を入れるの?」
「……玉子酒」
 混乱は隠せそうにない。
 結局、善意から起こった彼の行動は、大量の残飯と、彼が使った事により、秩序の崩壊したキッチンの修繕作業のみを残したのだった。
 彼は引き下げたそれをシンクに放り込み、今はカップ麺にお湯を注いでいる。やたらと色を推してくるメーカーのものだ。彼はうどんを選び、彼女はそばを選んだ。
 赤と緑を持ちつつ、治外法権なそれを横目にちらつかせながら居間に向かうと、彼女はテレビを点けて、ぼぉーっとそれを見ていた。
「タマ、大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ? あ、有り難う!」
 どうやら食材を駄目にした事については怒ってないらしい。頑張りぐらいは認めてくれたのだろうか? まだ分からないけれど。