ああ、酷いもの。
 彼は目の前の出来上がった昼食とも言えない何かに、思わずうなだれてしまう。
 彼の左前方には、スクランブルエッグがある。予定ではふわっとしたダシ巻き玉子だったのだが、これはまだいい。
 右手に見えるのは、味噌汁。形のいびつな豆腐もこの際いい。しかし、これについてはもう少し必要だ。
 何だろうか。この味覚に訴えてくる深みの無さは? それならば即席の方がマシだ、とすら言えない、いや、もはや味噌汁とすら言えない。彼の評価は、ただの黄色いお湯。
 しかし、中央に位置するそれと比べれば、やはり右翼のそれすら霞んでしまうのだろう。
 中央の白銀は、お粥だった。しかし、彼は悩む。
 ……何故こんなに甘いんだろう? と。
 確かに塩を入れるつもりが、間違って砂糖を入れはした。しかし、その倍以上の質量で以って糖分を淘汰すべく塩分を投下した筈なのだ。
 ……甘さは塩っけにより、中和されるべきじゃ無いの? 作り直したくもあるが、もう米はない。いや、米はある。ただ炊けないだけの事。そして、古典は関係ない。
 彼は時計を見た。時間は十二時を回っている。
 彼は諦めて一汁一菜と主食の入った鍋を居間のテーブルに置き、彼女を起こしに掛かる。
「タマ……。起きて。ご飯作ったよ? 食べて薬飲もう?」
「……うーん、……あ、お早う。お昼?」
「うん。作って見たんだけど、正直自信ないよ? カップ麺の方が良かったかも……」
 彼がそう言うと、彼女はすっと起き上がる……そぶりをしただけで、また力無くうなだれる。
 彼は、食べさせてあげると言ったのだが、彼女は大丈夫と言わんばかりに今度は一息で身体を起こした。