彼が箱から出してみると、四錠、つまり二回分しか入っていない。
 彼はヒートシールを半分から割れ目に沿って切ると、キッチンに行ってコップに水を注ぎ、彼女の元へ持って行った。
「有り難う」彼女の一言に耳を貸しながらも、彼は一旦抱き抱えて、力の入らない彼女を起こし、薬と共に水を渡す。
 彼女はそれを受け取ると、少し苦しそうにそれを飲んだ。彼は、それを見送ると彼女をゆっくりと寝かせ、囁く。
「うん。今日はゆっくり寝てな? お昼にはご飯を作ってまた起こすから……」
「うん……、でも、ケーキが……」
 そう。昨日買い物に行ったのはケーキの材料を買いに行く為だった。この家には、割とマシなオーブンレンジがあり、クッキー、ケーキ等を焼く事が出来る。
 彼女は、事あるごとに料理をしていて、彼はクッキーをよく三時のおやつで食べていた。どこにも出掛けない日には。
 だが、
「今日は無理だよ、タマ。治ったらで大丈夫。今日はゆっくり寝てて? クリスマスイヴだってただの十二月二十四日、それだけの事なんだよ? だって……」
 ……神様なんて、居ないし。
 彼は最後だけ口をつぐみ、わざと咳ばらいをすると、ニコッと笑う。
 そして、彼女の髪を撫でつつそう諭した。
「治ったら作ろう? 楽しみに待ってるから」と。
 優しい笑みに釣られて、彼女も笑い、そして、目を閉じる。
 彼は、微笑と共にそれを見送ると、ただただ思った。
 ……アリアドネの糸は来ない。
 ただそれだけを。