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 過去その一。



 彼の家庭は本当に平凡なものだった。
 よくある田舎の風景、その一角に一軒家を持ち、父は工場の社員、母は専業主婦という何とも代わり映えのしない夫婦の一人息子として生まれた。
 小中学校に進むも、成績も本当に中の中といったところで、外見も特に悪いって事も無いのだが、可があるのかと問われれば返答に困ってしまうような顔立ち。運動神経も、まあ並と云った所。
 正に、平凡の特待生とも言えるべき存在である。
 しかし、そんな周りからの無難な評価とは裏腹に、彼の心にはひとつの暗い欠陥的要素があった。
 その変調に気がつき始めたのは、中学校も半ばを過ぎた辺り。



 彼が眠りから目を醒ました時、彼が見慣れたものは何一つとしてなかった。
 夢だろうと彼は腹を括って目をつぶったが、いつまでもその夢は覚めることはない。
 現実的に見て、彼は意味の分からない場所で立ち尽くしていたのである。