彼女が倒れたのは、皮肉にも四週間後のクリスマスイブの事であった。
 その日、彼は彼女の胸の中で目を覚ました。彼は少しばかり驚いたものの、直ぐさま異変に気が付き、声を鳴らす。
「……? タマ……? 大丈夫?」
 何時もなら、彼の専売特許でもあるそのうなされ方に、彼は本当に驚いてしまった。彼の額にも、びっしりと汗がこびりついていたが、彼は気にも止める事なく、似たようなそれに手を当てる。
「……! 凄い熱だ……。タマ! タマ! 大丈夫?」
 そこで、顔を俄かに歪めた彼女が目を覚ました。
「……? ガク? あ、ごめんね? 早く朝ご飯の準備するね?」
「タマ。凄い熱いよ。おでこ。今日は休んでな。僕がご飯を作るから」
 諭すように言う彼の言葉に、彼女は少し口を開けると、弱々しく頷いた。
 彼は早速腰を上げ、キッチンに足を運んだ。そして、スーパーに行く度に貯まる袋をシンクの右斜め下に並ぶ無数の引き出しのひとつから取り、その奥にあった冷蔵庫に向かう。
 そして、冷凍庫から焼酎に使う氷を取り出し、無造作に袋に入れた。
 それを縛りつつ、彼女の所へ行くと、今作った即席の氷嚢を彼女の額に置いてやる。
 そこで気付いた彼は、嬉しそうに笑う彼女にそれを持たせると、更に小走りで洗面台に向かった。タオルを取りに行ったのだ。
 ふかふかのタオルを掴んだ彼は、ベッドで寝そべりながら帰還を待つ彼女の横で立て膝になり、彼女が持つ白のそれを受け取り、顔の汗を拭いてやる。微かに忸怩の念を見せる彼女の汗を丹念に拭った後で、やっと彼は一息付いた。
 彼は、寝る時も外さないお馴染みの時計を見ると、時刻は八時四十分を指している。それを見た彼は、立ち上がりベッドの先にあるカーテンを、背伸びして開けた。眼前には生憎の空模様。雨が深々と降っているのを自分の視力で確かめてから、彼はそれを閉める。
 定位置に戻り、彼は言った。
「何か食べたいものある? 下手くそだけど、何か作ろうか?」
「……うーん。あッ。昨日スーパーで買ったゼリーが食べたい」
「体温計はある?」
「うん。その棚の上の、缶の中」