「…………?」
彼は、更に辺りを見て回ったが、彼女の姿を確認する事が出来ない。
「何処に行ったんだ? ……あたたっ。……もう無理」
 彼は持っていた文庫本を目の前にあったクロスワード等が並んであるコーナーに一先ず置き、天井にぶら下がるトイレのマークに従って走り出した。彼は、こんな所に人間の限界を感じずには居られない。
 一応、彼女を捜しつつ行ったのだが、トイレに着くまでの間にも彼女の姿は何処にも見られない。
 彼はそのまま飛び込み、空いていた一番奥の部屋に入って鍵を掛けた。
「……ふう」
 やっと一息付く。
 ……しっかしタマは何処に行ったんだ? 
 余裕が出て来た彼は、火の点けた煙草を燻らせながらそんな事を考えていた。
 そして、吸い終わったそれを便器に投げ付け、用は済んだとばかりにその個室を出る。勿論、トイレは禁煙である。
 彼は、手を洗ってトイレを出ると、今度は慎重にゆっくりと、満遍なくフロアーを捜していく。
 小説、漫画、雑誌……。彼はじっくりと観察をする様に見て回ったのだが、
「……あれーっ?」
 彼女の、かの字も見当たらない。もう一度小走りで店内を捜索したが、やはり同じ事。トイレに行ったという線を導き出し、十分程そこで待ちぼうけをした所で彼は気が付いた。
 このフロアーに彼女は居ないという事に。
 彼は携帯等持っていなかったので、大分困った事になった。この頃彼女とこんなにも離れた事はない。いや、厳密に言えば三ヶ月間、風呂とトイレを除いて離れた事がないのだ。