「で、その時のお父さんったらね」
 この頃は、状の話も父の話も出てくるようになった彼女。大酒飲みなのは、家系らしい。彼女は、この街に詳しいらしく、地理を完全に熟知している。居酒屋などは、父が夜遅くまで仕事の際に、状と、良く行っていたようである。
「そう。初めてガクと行った居酒屋さんも、常連なんだから!」
 意味も無く胸を張る彼女。……推定D。
 そんな事を話しながら、彼等は道沿いにある有名な七の数字が付くコンビニエンスストアーに行き、彼女はそこで金を下ろした。彼はその間ヘアーカタログを限られた時間内で読みあさっている。髪型が気になって仕様がない。
「ガーク! 終わったよー! 行こ?」
 ……もう払ったんだ。
 彼はもう少しだけ読みたくもあったが、大人しく付いていく事にする。彼等がこれから向かうのは本屋。こんな狭いところで店員のほうきと格闘するよりはそちらにさっさと行った方が得策。彼は彼女に頷くとすたすたと歩いていくそれに付き従った。それは正に英断……というのは流石に言い過ぎなのか。
 彼等は店を出ると、目的地へと歩を進める。
 彼女が言う本屋は十階建てのデパート内にある。そして、相当な距離があった。彼は出る前に自他共に認める天然記念物、またはガチャポンの景品とも言える時計を見ていたが、かなりの時間が経過している。ただし、それについては何も言わない。何しろ言い飽きている。
 ……まあ運動不足だから調度良いのかも。
 彼は奮起すると、わざと騎兵隊のパレードの如く脚を上げて闊歩しようと試みたのだが、それは彼女のジト目にて一蹴を余儀なくされた。
 端から見ればそれは正に蛇に睨まれた蛙の様。彼は恐縮しながらも、ふと空を見上げた。
 春や夏。秋、そして冬。年中変わらない様に見える快晴を目に映す。
「ガーク! 遅いぞ! はーやーく!」
「はいはい……」
「ハイは一回で良いの! ほら、手を繋ぐ!」
「……」
 彼は、彼女の声と共に差し出された柔らかなそれに手を掴まれると、ぐいぐいと引っ張られていく。
 些か歩くペースが彼と彼女では合ってないものの、やっとの事でデパートが見えてきた。