「……疲れたね。けれど、ガクに言えて良かった……。ほら! 私って直ぐ顔に出るじゃない? 嘘って付くの下手なのよね……」
 ……自覚していたんだ。
 彼はそれには何も言葉を言わず、ただ頷いているだけ。
 今は帰り道。夕暮れに差し掛かり寒くなって来たので、彼等はその城山を下りてきたのだ。しかし、バスの時刻を見たのだが、ついさっきバスが出てしまい、彼等は元来た道を、今度は歩きで帰らなければいけなくなった。彼女は心底ホッとした様子で、何も冗談等言っていないのにニヤニヤと笑みを浮かべている。しかし、急激に表情が曇ったりもするので、嘘がつけないというのは、彼以外から見ても明白なのは事実だろう。
 彼は思う。
 彼女はもっと早く言うつもりだったと言っていたけれど、やはり今日それを言う事に決めていたのだろうと。
 ……タマさんの思い出の山なら、きっと弟さんも力を貸してくれる筈。
 そんな彼女の心境を彼は無意識に悟っていた。一ヶ月も少しも離れず生活していたのだ。それは至極当然の事の様。
 それとは別に彼は黙孝する。確かに彼女の謎は解けたかの様に見える。しかしそれは、彼が家を出て彼女と出会ってからわいた問題であり、彼の根本的な問題には何一つ結び付いてはいない。
 ……ただ、スタート地点に戻って来ただけ。
 彼はそこまで辿り着いた所で頭が痛くなり、推論の払拭を試みようとするが、それすら面倒臭くなって止めた。
〔……るな……〕
 微かに聞こえるその声を無視するように、彼は彼女が幾度も通ったであろうその道を足早に歩く。