その時だった。
「きゃっ!」
 彼が思いを断ち切り声の方を見遣ると、彼女は前のめりに倒れている最中だった。彼は反射的に彼女の方に走るが、間に合う筈はない。彼の徒労も実らず、彼女は突っ伏してしまう。
「いったーい!」
 彼はそう叫んだ彼女の傍に寄り、地面に咄嗟に付いた手を覗いたが、幸い外傷はなかった。枯れ葉がクッションにでもなったのだろう。
「大丈夫?」
「うん……、何とか。足に何か引っ掛かって……」
 そう言われて彼女の転んだ所を見てみると、何かの溝に嵌まったピンクのパンプスが、紅葉に埋まりながら天を指し示している。彼はそれを取って彼女に渡そうとしたが、その動きは彼女の「あ、待って!」という一言で止められた。
 彼女は痛みもどこへやら、目をキラキラさせて片足跳びで、靴の方に向かうと、それを取って輝く微笑と共に彼に見せた。
「えへへー! 見て見て! 紅葉のくつぅ! 綺麗だね。このまま履いてみようかな?」
「あ……」
 確かに彼女が言った通りそれは紅葉の靴のようだった。若干、と言うか大分ピンクが見え隠れしていたものの。
「止めておきな? 靴下が汚れるよ?」
 彼がそう言って窘めると、彼女は少し膨れっ面をしたが、靴をぱっぱと叩いて彼に従う。
「ふう。残念!」
 彼女はそう言ってまた落ち葉の中を踊りだしたので、彼は今度こそ転んでも捕まえられる様に少しばかり彼女の近くに寄って行った。