彼等は先ほど座っていたベンチに戻ってきて、腰を下ろす。そして彼は煙草に火を点けて、彼女が話し出すのをじっと待った。
 やがて、彼女の口から、――彼女についての真実が――ぽつりぽつりと紡ぎ出される。
「えーと、どこから話していいのかな? ねえガク、私にはね、弟が居たの……、双子の……」
 彼は始めのさわりから驚きを隠せなかったが、頷き、話の続きを待った。
「私達は、勿論二卵性だったけど、顔も似てたし、何時でも一緒だったの……。何処に行くのも一緒、ご飯を食べるのも一緒、寝るのさえ一緒だったの。可笑しいと思う?」
「全然。普通だと思う」
 彼は短く返事をした。彼女は眼前に広がる町並みを懐かしそうに眺めている。
「……状は、あ、弟の名前は状って言ったの。見舞状とかの状ね。分かる?」
「分かると思う」、彼はそう言った。
「状はね、明るい性格でいっつも私を引っ張っていってくれてたの……。タマ遅いぞ! タマこっちだ! って言う具合にね……」
 彼は頷いた。彼に出る幕はない。
「私も状には助けられっぱなしで、よく虐められては状に愚痴を言っていた。そうするとね、彼はいっつも私をこの山に連れていってくれて、頭をなでなでしてくれたの……。家はすぐ近くだったから……、ほら、分かる? あそこの茶色の家がそうだったの」
 彼女がそう言って指を差したその先には、確かに茶色い屋根の一軒家があった。
「私も状の笑顔が見たくて、一杯冗談を言ったりとかおどけてみたりとかしてた……けどね、……それも去年までだった……」
 彼は彼女の顔を見たが、涙は流れていなかった。
 ……きっと我慢をしてるんだ。
 彼は心の中でそう推論する。