彼女が作った手作り弁当は、それはもう完璧と言えるレベルまで達していた。
 それは数少ない彼の好物で埋め尽くされ、彼に至福の極みを与えていた。サンドイッチや、サラダや、揚げ物。更にはデザートのプリンまで手作りという手の込み様。
 普通にいって、旨すぎた。彼はそれを取っては食べ、食べては取ってを一途に繰り返す。
 幾らでも入る気さえする。
 しかし、開けられていないタッパーを開けた所で、――やっとの事で――彼は現実に還ってきた。その中に入っていたのは、大量の茹でたブロッコリー。
 彼は呆然として彼女とブロッコリーを順番に見、いや、おかしい、と言った面持ちで首を傾げる。
 意味が分からない。
 恐る恐る彼女を見上げたのだが、目の前の漆黒に包まれた女性は、さっきとは打って変わった、人の悪い笑みを浮かべていた。
「ねえガク? 見付けちゃったね? それも食べなきゃダメだよ? うん。お姉さんがアーンッてして挙げるから。ほら、アーン!」
「タ、タマさん! 落ち着いて。ぼ、ぼくはそれが嫌いだと何度も……。あ、あぁーーッ!!!」
 ……無理矢理食べさせられた。……酷い。
 彼が辱められた少女のような、潤んだ瞳で彼女を見遣ると、彼女はタッパーを持ったままお決まりのポーズを取っていた。腰に手を当てるあれである。
 第二波が降り懸かりそうな予感がしたので、思わず彼はベンチから逃げようとするが、彼女の無言の圧力で足が動きそうにない。逃げられやしない。
「ガーク! はぁい。アーンして! そんなんじゃ大きくなれないわよぅ! ほら、アーン!」
「も、もう止めてくれーーッ!!!」
 追撃を食らった彼の絶叫は、山びことなって空に舞っていった。