「凄いね! 本当に綺麗。ねえガク? そうは思わない?」
「……確かに綺麗だね。うーんと……、なんだか言葉が出てこないよ」
 彼等は、丘の隅にある古ぼけた木のベンチに座ると、目の前に映る木々と町並みを眺める。彼は、弁当の入っているバスケットを持ちながら登っていた為に、かなりの体力を消耗していた。
 しかし、人間など単純なもので、たどり着いた途端に、そんな事は忘れてしまう。
 そして、その壮大な風景を目にして、心が洗われるような、大地に包まれるような感覚に身を委ねていた。
 素晴らしい風景をただただ見ていた彼等だったが、ふと、とても空腹であることに気付いた。彼の腹の虫が急かしたのだ。
 彼女は少し笑って、「お昼にしようか? 私も空いちゃった」と、フォローのつもりだろう、合わせてきたのだが、彼は恥ずかしくなり俯いてしまう。「自然の摂理なんだ」、彼はそう弁明しようとしたが、諦めて彼女に従った。
 ……ぶち壊し。
 彼は苦渋を噛み締めながら、彼女と共にバスケットの中のものを取出しに掛かる。
 しかし、それすら忘れてしまうほどのバスケットの中身。それは、正しく豪華絢爛と言っても差し障りがないほどの彩りに溢れていた。彼は驚いている。それを見て、微笑を讃える彼女。
「頑張って作ったんだから味わって食べてね? 一時間半も掛かったんだから……。頬っぺた落ちちゃうぞー!!! それでは……」
「「いただきます!」」
 彼等は同時に声を発すると、木のベンチに置き切れない程のそれを口に運んでいった。