十分程で電車が到着したので、彼等はそれに乗り、ドアの近くに腰を下ろす。
 電車はビル街を何処までも突き抜けていく。といってもたかが二駅。溜め息ひとつつく間に目的の駅に着いてしまう。彼等は電車の中では一言も口を聞かず外の風景を眺めていた。
 彼等は、電車を降り、駅の構内を出ると、調度バスが今来た様。
 それに飛び乗った彼等は、更に十分程揺られながら目的の場所に向かった。彼等の住む街から、二駅しか離れてないのだが、そこには、民家などが立ち並び、所謂田舎の様相である。そして、赤く染まる山が見えて来た所で彼等はバスを降りる。
「……おお」
 彼は、初めて見る光景に思わず感嘆の息を漏らした。
 眼前に拡がったその山は、戦国時代か江戸時代かは分からないが、城があったらしく、そこかしこに石垣やら城濠の痕跡が伺えた。それらは些か古びてはいたものの、彼に昔此処にいた人々の情景を浮かび上がらせるのには十分の力があった様。
 彼等は、周壁の跡地に沿って何処までも、しかしゆっくりと登っていった。
 城が倒壊した時に植えられたのであろう、木々達は数多の歳月が流れたのか、今ではどれもがどっしりと根を下ろし、麓の町並みを眼下に見下ろしている。そしてその全てが例外なく朱く染まっており、彼の足元にも落ちた葉が敷き詰められている。
 それはまるで、赤い絨毯の様であり、彼等はその荘厳な風景を見下ろしながら、上に上にと足を運んだ。
「もう少しよ! 本当に久しぶりだわ!」
 彼女がそう言ったので、彼はこの一ヶ月ですっかり鈍ってしまったこの身体に鞭を打つように、ラストスパートを駆ける。
「はぁっはぁっ……」
 そして、最後の力を振り絞ってたどり着いたその先には、広々とした丘陵地帯が、姿を現していた。