二十分程揺られ、駅に着いた彼等は、階段を上り、構内に入っていった。彼は一月前に来たその場所に感慨深いものが過ぎったが、彼女がスキップをしながらすたすたと行ってしまうので慌ててスキップ……ではなく早足でそれを追う。
 そして彼女は二駅分の切符を買うと、片割れを彼に渡した。
 彼は、彼女との奇妙な共同生活の間にお金を払ったことは一度も無かった。彼が幾ら払うと言っても、彼女は一切話を聞かないのだ。彼がお金を払おうとすると、彼女は決まってこう言った。
『私のお金が無くなったら出してね。それまでは、出さなくていいから。まあ、当分の内はなくならないだろうけど。うふふ』
 と。それはその時の調子によってニュアンス等が変わる時があったにせよ、概ね同じ意味を表していた。
 プライドがそこそこある彼には、まるで精神的虐殺の様なものだったが、仕様がない。彼は発言権に続いて市民権までなくなっていっている気がしたが、それは紛れも無く気のせいだった。ここより五十キロ離れた街にそれはある。
 彼等は売店でお茶を買うと、改札口を潜ってホームに出た。まだ電車が来るまでには時間があったが、彼等は立ってそれを待った。
「早く来ないかなぁーっ!」
「うん。そうだね」
 彼女が緑茶を飲みながらそう言ったので、彼も適当に同意しておいた。