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 過去その五
 彼は高校受験に成功し、その春から晴れて高校生になった。彼は出席日数があまり芳しくなかった為に少々不安だったのだが、何とか受かったことに取り敢えずの安堵を覚えた。
 彼の病気なのかさえ分からないそれは、相変わらず煙霧のように分厚く彼の周りに漂っていて、晴れることは皆無だったが、そうも言っていられない。それに環境が変われば少しは改善されるかも分からない。
 彼は基本的には真面目な人間だった。そして、なるべく人の良い面だけを見つめようとし、また大地の恵みに感謝しようと努めた。そうでもしないと生きていけないと感じていたのだ。
 しかし、そんな彼の決意と平穏も長くは続かない。許されやしない。
 それは高校に入って四ヶ月足らずの、今にも夏に差し掛かろうかという時期に始まり、エンドロールもなく終わった。
 彼は目が覚めると、また見知らぬ土地に立ちすくんでいた。彼はまたかとばかりに身体を動かせようとしたが、身体は思うように動かない。……何故だ? 彼は思ったが、こんな訳の分からない場所にいつまでも居たくはない。
 彼は電車の線路が見えたので、それに沿って商店街方面へと歩き出した。そっちに向かえば駅があるはずだと、彼は今までからの経験を元にそれを熟知している。
 そして、やっとの事で駅に着くと、彼はその現実に愕然とした。
 それは、今日の日にちであった。彼が見た掲示板に書かれてあったそれは、実に最後の記憶から一週間もの開きがあったのだ。
 そして、それと同時に体調の悪い理由に思い当たる。
 彼は確認の為にトイレに行き、その姿見を見る。目の前にある見慣れた彼の姿は、彼の予想通り一週間前とは別の一線を画していた。
 頬は窶れ、目は窪み、どこぞの骸骨かと思われるような出で立ち。
 彼が試しに服を下から捲ってみると、その肋(あばら)は少し前に流行ったテレビアニメのように、がりがりにやせ衰えていた。