「ジャンジャジャーン!」
 彼女が持って来たのは特大のハンバーグだった。結局彼等は帰った後、何をする訳でもなく家で雨の日の猫の様に寛いでいた。
 そして、空が夕焼けから夜に変わる頃、彼女はキッチンに行き、料理を始めたのだ。彼は彼女に「手伝おうか?」と聞いたのだが、答えはあっさりとノーであった。どうやら逆に邪魔らしい。彼女は物凄く気合いが入っているようなのだ。包丁が訳もなくキラリと光った。
 そして、気付けば眼前に見るからに三百グラムはあるであろうそれがどっしりと居を構えている。そして、ハムエッグの時と同じようにケチャップでハート。それに対して彼女のそれは彼の半分にも満たってないように見える。
 足りるのかと彼は思ったが、まあ彼女が作ったのだ。自分の食べる量くらい把握出来てるのだろう。
 彼女のハンバーグの上には、タマの! と描かれていた。誰も取るはずはない。
 彼女はサラダのついでに今日の昼間に買っておいた新発売のビールも持って来て、その内のひとつを彼に渡すと、やっと一段落ついたのだった。
 彼女は「ふぅ……」、とばかりに溜め息をひとつ付くと、彼に言った。
「よし! 完成よ! 今日は本当に良い出来だわ! やっぱり食べてくれる人が居てくれるからかな?」
「うん……、本当に美味しそう。ただ、凄いボリュームだけど」
「そのくらい食べれるでしょ? 男の子なんだから! じょうも……」
 と言ったところで彼女の動きが止まった。彼が彼女の方を見ると、
「……ん」
「……?」
「時代の人だったらそのぐらい食べれるよねきっと! よし、乾杯しましょう乾杯! あ、まだご飯は要らないよね? じゃあカンパーイ!」
 何か彼女がボロを出しまくってるような気もする。
 ……此処も流した方が良いのか? 彼は大人の所作法をピックアップしてみたが、そんな事は何処にも書いていない。
 彼女がビールを持って乾杯を催促してくるので、彼はあまり気にせずそれに倣う。
 元彼の名前でも呼びそうになったんだろう。
 彼はそんな事を思っていたが、まだ彼女についての真実に行き着くには僅かばかりの時間があるようだった。