彼は彼女の話について思案を試みてみたが、どうやら何も答えは出てこないようだった。彼はこの頃何一つ答えを導き出せてない。考えることも多過ぎるし、何個も何個も問題を抱えられるほど、彼の頭は良くはない。
 しかし、彼女は何も語らないのだ。分かる筈もなく。そして、それは自分の頭とは無関係。彼は自分の、回転の鈍くなったかもしれないそれを軽く小刻みに振ってみる。それによって、彼の頭はいくばくかの甦りをみせた。

 今更だが、彼は困ったことがあると頭を振る癖がある。

 彼女の方を見ると、彼女は虚構であると思われる境遇を想像して悦に浸っていた。そのまま放っておくというのもひとつの手ではあったが、流石にそれも忍びない。
 彼は煙草に火を点けると、彼女に言った。
「ねえ、取り敢えずもう出よっか。コーヒーも飲み終わったみたいだし」
「……あ、うん! そうだね! それでは行きますわよマリアンヌ」
「いや、これを吸い終わったらね……」
 最早彼は、突っ込む事も放棄した。早く煙草を吸う事に専念する。
 煙は、彼の目の前を暫く漂うと、消え入りながら上昇していく。