スーパーに着いた彼等は、早速夕食の品定めに取り掛かる。
 因みにスーパーに行くまでに二十分程を要した。彼はアパートを出た時にご自慢のボロ時計を見ていたので間違いないと言えよう。
「いつもこんなに時間を掛けてスーパーに行っているのか?」と、彼が問いただしてみると、彼女はこれぐらい何でもないと云ったそぶりで、「うん! 風景も見れるし一石二鳥でしょ? うーんノスタルジー」
 と、……頭でもおかしいのだろうか? 意味の分からない事を言っている。彼は少々げんなりしたが、彼女の意見に合わせることにした。彼の身の上は世知辛い居候なのだ。彼に発言権はない。
 彼等はまず、野菜コーナーに行き、適当にレタスやトマトを買い物籠にぶち込むと、生鮮食品売場に向かった。
「ねえガク? ハンバーグは好き?」
 彼女が唐突に聞いて来たので、彼はぼそぼそとハンバーグに好意はあると言う事だけ、手短に伝える。
「じゃあ決まりね! ガク、覚悟しときなさいよ? 私のハンバーグは超絶品なんだから!」
「う、うん!」
 何に覚悟をしなくてはならないのかは勿論分からなかったが、ハムエッグすらあれほどに旨かったのだ。料理に自信はあるのだろう。
 彼は彼女が料理しているところを想像したが、慌ててそれを取りやめる。
 戦争をしに行く訳じゃないのだ。無駄に血を流す必要はない。
 彼は鼻を押さえると、明後日の方を向いた。
 ……危ない危ない。
 彼が想像したのは、裸にエプロンを巻いて料理をする、無垢な少年には見せられないような彼女の姿だった。