昼食を食べた後、夕飯の買い出しと銘打ち、彼等は近くのスーパーに行くことになった。
 余談だが、大地は裂けなかった。神々も忙しいのだ。わざわざ一回一回来る訳にもいくまい。
 アパートを出ると、外は雲ひとつない、いい天気。所謂、典型的な秋晴れのよう。
 ……気持ち良いなあ。
 彼はそんな事を思いながら彼女と天気について話してると、ふと、道路を挟んだ先に公園がある事に気がついた。七十坪ぐらいの小さな公園だったが、ブランコ、簡易的アスレチック。中でも、中央に大きな木があるのが印象的に見える。
「あれは何の木だろう?」
 彼が彼女に問うと、彼女は笑って答える。
「うふふ。あれ? あれは桜の木よ。知らなかったの?」
「いや、桜は知ってるけど咲いてる時ぐらいしか見ないからね」
 目の前のそれはやることがないと言った感じを醸し出してポカーンとしていた。枯れた葉が誰に見られるでもなくひらひらと舞い落ちている。
「ここの桜はね、凄いのよ? 私も、今年の四月に初めて見たんだけど、桜の花が咲くじゃない? けれど、ああ、やっと満開だって思っていたら、何日もしない内に散っちゃってたの。きっとあれ。あのビルの谷間に抜ける風が、きっと早く散らしてしまうの」
 彼女は早口でそれを言ってしまうと、少し自慢げになった。
「ふむ。早く散る、か……」 
 彼はそれについて考えるそぶりをしたが、特に思ったことはない様子。
「……ふーん、そんなものなのかな?」
 得意の発音の悪さでぶつくさと言っていると、隣の彼女は遠い目をしている。桜が散っていく情景を、想像しているに違いない。
 ……まあ、元気ならいいか。
 彼は、一対の茶碗の事を思い出してみた。
 ……何かあるのは間違いないだろうけど、あの抱えてたぼろい人形と関係あるのだろうか?
 二人は、思い思いの事を考えながら、ゆっくりとスーパーの方面へと足を運んでいった。