「ねえ、ガク? 私が一言でも迷惑だなんて言った?」
「いや、言ってないです」
「ガクはこのお家嫌だった?」
「……いえ、そんな事は……」
「ガク、私の作った料理、美味しいって言ってくれたよね? あれって嘘だったのかな?」
「違います! あれはほんと……う……に?」
 気が付くと、彼女は泣いていた。ぽろぽろと大粒の涙が彼女の頬を伝い、落ちた涙が彼女の手の甲を濡らしていた。
 彼女は涙しながらも続ける。
「ヒック……、ねえ、ガク? 世の中には嫌だと思っても言えない人もいる……。けど、ガクはそうじゃないでしょ。……遠慮するなとは言わない。けれど、私は純粋にあなたが心配なの。……家に帰りなとももう言わない……、ガクにだって理由はあるもんね。けど、私の存在価値があるってガクが言ってくれるなら、もう少しだけでもいいからここに居てくれないかな? だって……、やだもん……」
 彼女はそう言って立ち上がると、ぬいぐるみの山の前に立って、古ぼけたぬいぐるみを抱きしめた。
 そのぬいぐるみは他の人形に比べて酷く場違いに見えたが、なんだか彼には物悲しく映ってみえる。
 彼はおもむろに立ち上がると、泣くだけ泣いて小さくなってしまった彼女を抱きしめた。
 そしてそれは、彼女がぬいぐるみを抱くそれに酷似。
 唐突な展開。久々に見た女性の涙。彼は、そうする事でしか、自分の気持ちを彼女に伝えられない気がした。
 彼は、決心をする。これから、しばらくの間厄介になる事を。疑問が気になる探偵のようにも見える。