「いっただっきまーす!」
「いただきます」
「ねえガク? 顔色良くなったね。お風呂に入ったからかな?」
「うん。嫌な汗も流れたし、気分は良くなったよ」
 彼はそう言って顔を両手で鳴らしてみせる。彼も風呂を出て洗面台の鏡を見ていたが、風呂に入る前と比べると幾分は良くなったように思える。入る前が酷すぎたのだ。
 そしてどちらからとも言わず、彼等は目の前の朝食を片付けに掛かった。
 メニューはこんがりと狐色に焼けたトーストと、ハムエッグ。横には御大層にミルクたっぷりのコーヒーまで用意されてあった。
 彼はハート型のケチャップがかかったハムエッグを一口食べると、
「おいしい……」
 と一言唸る。
 それは本当に美味しかった。まるで大地が裂け、神々の秘宝が何故か目の前に差し出されているといった心境。彼が幻想的風景を脳内に連れ込んでいると、彼女が恥ずかしそうに切り出す。
「たいしたものじゃ無いんだから、あんまり褒めないでよ。美味しいに決まってるでしょ? 私の愛がたーんまり入ってるんだからね?」
 彼は、その照れ隠しだか冗談だか解らない発言に適当に相槌を打ちながらも、本当に感激していた。
「とても美味しいです……」
 そう繰り返した彼は、みるみるうちにその皿にあったものを平らげていく。
 彼女も嬉しそうに彼を見ると、直ぐさま彼に倣い、黙々と食べ始めたのだった。