「……え、起きて……」
 ……誰だ?
「ねえ、大丈夫?」
「……はッ!」
 彼が目を開けると、彼女が心配した面持ちでこちらを見つめていた。
「大丈夫? 何かうなされてたみたいだから……」
 彼は額を拭ってみると、大量の汗が手に絡みついたのが分かる。また悪い夢でも見ていたのか。
「いえ、いつもの事なんで、気にしないでもいいよ」
「いつもの事って……うなされている事が? 大丈夫なの?」
「うん。何か悪い夢でも見てるんだろうけど。朝に起きると、何一つ覚えてないんだよね……」
「ねえガク? 取り敢えずお風呂に入ってきたら? 何か酷い顔してるよ?」
「うん。悪いんだけど、そうさせてもらおうかな?」
「もう……遠慮なんかしないでいいの。朝ご飯はパンでいい?」
「うん。ありがとう」
 彼はそう言って、ベッドの横に転がっていたリュックから、着替えのTシャツとトランクス、少し迷った後に、簡易的な二枚刃の髭剃りを手に持った。
 そして、彼女を一瞥して、笑顔と共に頷くと、風呂場に一目散に歩いていく。



 そんな彼を、笑って見送った彼女。ふと、ベッドと壁の間に挟み込まれた、大きな箪笥の上に置いてあるぬいぐるみの山まで歩いて行き、その中でも先頭の、若干見窄らしいぬいぐるみを抱きしめた。そっと。
 そして、「大丈夫よ……」と一人呟いている。それは彼にではなくまるで自分に言い聞かしているかのように見える。