淡いクリーム色の部屋。その中は大抵の女の人の部屋がそうであるように、甘い匂いと多数のぬいぐるみで満たされていた。それは彼のただの偏見と言う事もあったが、彼の中ではどうやらそういう定義。
 彼はどことなくぎこちなくなったが、冷蔵庫から彼女がビールを持って来ると、それを黙って受け取った。
「まだ飲める? 焼酎もあるけれど」
 そう勧める彼女に、彼は大丈夫だと言うように頷くと、それを開け飲んだ。酷く緊張している。
 若干脚が震えている気がしたが、それは紛れもない現実だった。
 彼が、男なら誰でも過ぎるいかがわしい感情をビールで流し込もうとしていると、横に座った彼女が、手に持ったビールのプルタブを引きながら口を開く。
 付け加えておくが、彼等はベランダ沿いのベッドに腰を下ろしているのだ。彼の目に入る範囲には椅子はない。
「汚くてごめんね? ちょっとは片付けたんだけど。えへっ。今日はゆっくり飲んで忘れよ? 話なら私が聞いてあげるから……」
「……うん。ありがとう」
 彼はニコッと笑うと彼女の方を見て思った。
 ……そうだ。何故かは分からないけど、今こうして彼女から今日という時間を貰ったんだ。それはラッキーだし、今日は笑っていよう……。せめて、せめて今日だけ……
 気付けば足の震えは雲散霧消していたし、彼女といる間、どす黒い影を持った何かは息を潜めている。
 そして、それは本当に素晴らしいことだったのだ。