「ここでちょっと待っててね?」
 そして、玄関に立っている彼を一瞥すると、彼女は奥に入っていく。
 彼の目の前には彼女が入っていった扉があり、その左手には真新しい洗濯機があった。右手にはまた扉がありどうやらトイレやバスに繋がっているらしい。
 バスと云う存在の為か、彼はやましい考えに頭が移行しそうになったが、それを払拭するように頭を大袈裟に振る。
 そうして幾分考えてたことを停止させることに成功した彼は、何をすることもなく靴の方を眺める。酔っているのだ。
 そこにはミュールやブーツなど、まさに女の子らしいピンクやグリーンの靴が華やかに並べられていた。
 それを近くで眺めようと腰を下ろそうとしていると、「お待たせー!」と云う声と共に、ドアが開け放たれる。
 見上げた形になった彼は、また絶句してしまった。目の前の彼女はピンクの寝巻に身を包んでいた。柄には星のマークがあしらわれており、黒一色の服装とは全く違った趣きだがそれはそれで彼女にとても似合っている様に感じられる。
 ……本当に今日という一日は心臓に悪い。
 彼はそう思ったのだが、彼女は何ともなさそうに、「どうぞ!」、とだけ口にする。
「お邪魔します……」
 彼もそれだけ捻り出すと、彼女に手を引かれ、部屋に入っていく。