「何でそこまでしてくれるんですか?」
 当然の疑問。話の最中、彼は彼女に聞いてみた。
 何故そこまでしてくれるのか分からないのだ。
 一般的に考えてもこんな事が起こるとは考えにくい。
 彼女はジンライムを口に含むと、首を傾げるようなそぶりをし、何が? と言ったような瞳で彼を見た。
 余談だが彼等はビールを三杯飲んだ後、彼女がジンライムが飲みたいと言ったので、彼もそれに倣っていた。
「いや、そこまでしてもらう義理が無いかなって……、初めて会ったばかりなのに、なぜそこまでしてくれるのかわからなくて……」
『全然リアリティがないだけど』
 そこまで続けて話そうとしたのだが、続きは彼女の言葉によって遮られる。
「ねえガク? 私達はナマエを交換しあった。それだけで理由は十分だと思わない? 確かにガクの事は今日の今日まで知らなかった。それは認めるけど、そもそも人の繋がりって、時間だけで造られるような物じゃ無いでしょう? ……それに……」
「それに?」
「私は、ガクの事が気に入ったの。それじゃだめかな?」
 照れたように笑う彼女。それを見た彼は、またもや下を向きたくなる。
 最早、卑怯の域なのだ。
 また顔が赤くなっているのを見られたくない。理由はそんな単純な物だったのだが、彼だって男。弱りっぱなしなのも癪。
 お返しとばかりに、彼は言ってやった。
「僕もあなたが気に入りました……」、と。
 だが、まず起きたのは一瞬の沈黙、そして彼女の「え? なに?」の一言。今度は、瞬時に俯く彼。
 適度に酔っていた彼の頭の中には、八十年代にヒットしたテレビ番組がモノクロームで延々と映し出されていた。