「お待たせしました。生ふたつですね!」
「はーい!」
 すぐさま来たビール。彼女は、受け取ったひとつを彼に渡しながら、問う。
「そういえば忘れてた! まだ名前を聞いてなかったわ。名前は何て言うの?」
 ……言われてみれば。
 確かにその通りである。彼等は何の自己紹介もしていない。
 ビールに口を付けようとした彼だったが、やはり口を先に開く。
「あの、高宮と言います」
 彼女は、彼のたどたどしい言葉にしばしキョトンとしていたが、それから勢いよく大音声で言葉を放った。
「ちーがーうー。それはあなたの苗字でしょ? わたしは、あなたの名前を聞いたのよ?」
 彼は津波のようなその勢いに飲み込まれそうになったが、必死に呟いてみせる。負けてはいられない。
「……がく」
「ん?」
「……楽人(がくと)です」
 彼女は、その言葉を聞くと瞬く間に笑顔になり、うん、うんとなぜか頷いている。
「……うん、じゃあ……ガク、ガクって呼ぶね! うふふ」
 そう言って笑う彼女は、さっきから子供扱いばかり受けている彼よりも、ずっと幼く映った。
「珠美(たまみ)よ……私の名前。タマって呼んで」
 彼が例の如く見惚れていると、彼女も笑顔のまま自己紹介。そしておもむろに中腰になり左手を腰に付け、目の前にあったジョッキを掲げた。そして、彼と目を真摯に合わせる。
「それではガクとタマにカンパーイ!」
「……えっ! あっ! カンパーイ……」
 唐突な彼女の発言にまたもや彼はびっくりさせられたが、直ぐさま彼女に倣い、ビール同士を叩きつけた。少し勢いがありすぎて服に飛んだが、まあビールが飲めるのだ。
 彼はそう納得すると、眼前のそれを倒しに掛かる。