そう、彼女はとても魅力的だった。
 セミロングの黒髪には天使の輪が輝き、前髪が微かにかかった黒目がちの目は、西洋の猫を、さほど高くない、しかし、形の整った鼻梁は、天に向かってちょこんと傅く、幼女の祈りを彼に連想させた。なぜかは分からない。ただ、そう感じたのだ。服装は、クリアブラックのチュニック。
 彼がその姿に見惚れていると、彼女は一つわざとらしく咳をして、口角の上がった強気な唇でこう続けた。
「君はどこから来たの? ……家出でもして来たの?」
 いきなり核心的な事を突かれた彼は、動揺を隠しながら、――と言っても全くと言っていいほど隠しきれてなかったが、率直な疑問を口にしてみる。
「どうしてそう思うんですか?」
「それはそうよ。……君! さっきから何十分もそこに座ってたでしょ。しかもさも深刻そうに下向いちゃってるし……。流石の私もちょっと声掛けずらかったんだから!」
 腰に手を当ててなぜか頬を膨らます彼女を尻目に、彼は時計を見た。
 九時三十分。彼がここに来たのは八時過ぎだったから、ざっと考えても一時間半の時が経過している事になる。
 ……全然時間なんて気にしてなかったな……。
 そう思いに耽ってると、彼女がまた話し出した。
「しかも君。まだ十五、六歳でしょ? お母さん達心配してるよ。子供なんだからもうお家に帰りなさい。何だったら……」
「いや! 今年で十八なんですけど……」
 割り込むように彼はちょっと傷つきながら言った。そんなに若く見られたことはない。
「え? ホント? じゃあ私と一個しか違わない……。えーと……、あの…………ごめんね?」
 さっきまで怒っている感じだった顔が、一転して申し訳なさそうな顔になっていく。
「……ぷっ!」
 その様子が可笑しくて、彼は奇しくも笑ってしまった。
 それを見た彼女も、彼に倣い、少しだけ笑ったような気がした。