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 過去その三
 彼は気を病み始めていたが、親や友達の前では極力それを出さない様に努めていた。彼は、人の前では前よりもなるだけきちんと話を聞くようにし、時にはつまらぬ冗談を口にした。
 彼は周りに自分の異変を気付かれたくはなかったのだ。
 それは、返って自分が異端者なのだと認識する発端にもなるのだが、彼はその時は気付いていない。
 季節は中学校最後の秋を迎えている。
 彼にとって、それは侘しい秋だった。
 何の奇跡も無く、何の僥倖も無く、何のお告げも無い。それは大抵の人々に於いて当たり前の何処にでもある秋だったのだが、彼は救いの様なものを求めていた。それは当然と言えば当然。彼にはその、何処にでもある日常さえ満足に遂行することが難しくなっていたのだから。
「神がいないとするなら、これは一体誰の仕業なんだろう?」
 神がいなければ相反するものも又いない。ならば、この願いは誰も聞いてくれない事になる。
 彼は自分の中に、何一つ確かなものを感じなくなっていく。