「流石にずっとここに居る訳にもいかないな……」
彼はそう呟くと、夕食を食べることにした。彼がしている腕時計は七時前を示している。
彼はもう暗くなった空を一瞥すると、もう一度、迷わないようにマンガ喫茶を確認して、先程のハンバーガーショップ、映画館とは逆方向に歩き出した。
二、三分歩くとどこにでもある定食屋が見えたので、少し彼は拍子抜けしたが、迷わずそこに入る事にする。何処だっていいのだ。
「いらっしゃいませ」
そう言った店員に適当にうなづくと、奥にある座敷に通される。特に広くも狭くもない、所謂定食屋である。客はまばらであり、込み合ってはいない。
通された水を飲みながらメニューを見て唐揚げ定食を頼むと、彼はもう年期の入った黒の折り畳み財布、その中身を確認。
一万円札が三枚と千円札が四枚、小銭が五百九十二円。通帳の中には十五万円ほど入ってるので、全財産は二十万円弱となる。
まだ当面の内は大丈夫だと思えたが、それでも彼の心の漠然とした不安は消え去ることはない。
何故だか無性にビールが飲みたくなったが、未成年という事もあり諦める事にした。そもそも一人で飲んだ事もない。地元にいるときは、地獄飲み会と銘打って大晦日等には悪酔いするまで飲んだ彼だったが、今その友達は目の前にいない。
今日一日で何度もよぎったその感情を押し退けるように、彼は眼前に運ばれたそれを無心で食べ始めた。