二時間強の本編も終わり、その特殊な映画館から出ると、さっきまでの青空は、今や夕闇に包まれようとしている。
 心は幾分落ち着いていた。それの中に溜まっていた異形のものは一旦どちらかへ退散してくれたらしい。或いは撤退命令でも出たのか。
 ……これだけ発展していれば、マンガ喫茶やカプセルホテルぐらいある。今日はこの街に泊まろう。
 そう考えた彼は、昼間に行ったハンバーガーショップ方面へ颯爽と歩いて行った。
 足取りも覚束なかったのにも拘わらず、十分もせずに見つかったマンガ喫茶の場所を確認すると、彼は手頃な腰の高さのブロック塀に腰を押し付け、徐(おもむろ)にポケットから出した煙草に火を点ける。
 彼は煙草を吸うのだ。
 ポケットから取り出したそれは、とある漫画の、某銃使いが吸っている煙草の様に、先が全て捩曲がっていた。
 彼は溜息混じりに煙を吐き出すと、自分が遠いところに来てしまったと改めて思い返えさざるを得ない。
 厳密に言えば家から五十キロぐらいしか離れていないこの街で、彼は現実的にも心理的な意味合いでも、間違いなく孤独だった。
 約三時間ぶりに摂取したニコチンに多少まどろみながら通りを宛もなく見ていると、実に多種多様の人間達が目の前を過ぎ去って行く。
 会社帰りのサラリーマン、学生、近くのスーパーにでも行くのであろう、子供を裏の荷台に乗っけた母親は、ベルを鳴らしながら器用に自転車を操っている。