帰り道の電車。彼女は、ホームまで見送ってくれて、そして、やはり最後も泣いていた。
 寂しいに違いが無いのだ。
 彼にも、喪失めいた何かが漂っているのは、承知の事実なのだから、泣きべそかきの彼女の事、これからも毎日泣いているに違いない。
 だが彼は、行きと何も変わりはしない、ただ方角だけが違う列車に揺られながら、それでも確固たる自信を持っていた。
 彼女とは、一時の別れなのだと。
 何故ならば彼は、自分が思い描いた未来を信じて止まないのである。
 紅葉のような赤い靴を履き、雪のような白いヴェールを可愛らしく被り、あの美しい肢体には、桜のような桃色のドレス。
 そして、全てを纏った彼女の薬指には、まるで、夏の陽射しのような、無色の指輪が光り輝いている筈なのだ。
 紅葉、雪、桜、日差し、全てが百花繚乱に咲き乱れる園は、そこにただ、存在していた。
 目を閉じれば、容易に想像できるその空間こそ、或いはこう呼ぶのかも知れない。
 楽園、と。
 何時からか、聴こえるファンタジア。その幻想の中で踊るは、勿論、泣き虫の彼女……。
 ……いや、泣き虫の「僕達」



 彼は零れた涙を拭うと、ふと周りを見やる。列車内は、休日なのだろう、家族連れ、友達連れで大いに賑わっていた。
 そんな光景を見た彼。至極当然の事を思ったが、暫くした後、微笑と共に目を瞑る。
 騒がしい周りを余所に、そのまま彼は眠りについた。
 何年振りかの静穏。規則正しい、安らかな寝息。
「……気付いちゃった」
 夢だろう。声が、聞こえた気がした。
「……好き」
 ……唇に、触れた気がして。



 ―end―