どうやら映画が始まるらしい。目を開けた彼は、部屋が真っ暗になっている事に気付く。
 思い思いの邦画や洋画が、短い時間を使って公開前の宣伝を行っていた。
 ……早く本編、彼は思う。皆見知ったような俳優達だったが、どれもこれも彼にとっては平坦な静止画の様に映るのだ。
 長々と尺を取った宣伝の後で、彼の待ち侘びた本編が始まった。
 その映画の内容とは、小さな少女がとある今はもう朽ち果てたテーマパークに家族と共に迷い込み、そこで働くというような物語。
 家族は豚にされ、悲しみに打ちひしがれる少女に青年がおにぎりを渡すシーンは、音楽と合いまってとても感動的だと思える。
 何故だろう。気が付くと彼は泣いていた。嬉しいわけでもなく、悲しいわけでもないのに、ただただ涙が流れてくる。
 しかしだ。彼はそれを拭おうともせず、テレビの数十倍はあるスクリーンを凝視している。それは、何か遠い昔に忘れ去られた残光を画面の中に探しているかのようにも見えた。