地球は温暖化の影響で海面が1メートル近く上昇した。
これにより国土の数パーセントは海に吸収され、その影響で地価は高騰を続けていた。

そんな中にあり、千尋の住んでいる田舎町の海辺にも土地を巡っての利権争いが日常茶飯事に行われていた。






「おーい!千尋ー!朝飯だぞー!」

水平線から昇った朝日をもろに正面から受けている少女の顔は綺麗な小麦色で、白いシーガル(半袖、短パン)のウェットスーツから伸びた四肢も同じ色をしていた。

「うーん!今行くー!」

男から声を掛けられた千尋は振り向きもせずにそう返事をし、

「チッ…」

と、短く舌打ちをしてから右足のリーシュコードを外した。

リーシュコードに繋がっているのは長さ2メートル程のロングボードだ。

千尋は砂浜に立てていたボードを脇に抱え直すと、もう一度海を見てから砂浜を後戻って行った。





「何だ?今日も入らなかったのか?」

「まあね…ブレイクポイントが近すぎる…。それにあのトーシロ…」

「おいおい…大事な客に向かってトーシロは無いだろ?」

「だってパドリングも満足に出来てないんだよ?あんなのがいる海に入ったらケガさせちまうよ…」

「あんなのがいるおかげで千尋は飯を食えるってわけだがな…」

「沙希ちゃんと海人(かいと)は?勇次」

「こらっ、呼び捨てにするなって言ったろ?…さっき起きて来たさ」

「そっか、じゃあ着替えてくんね」

「おう。部屋に砂上げんなよ!」