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サワサワ。
葉の擦れあう音だけが耳に届いた。
誰一人といない真っ暗な公園では、心地の良い風が髪をゆらす。
はちきれんばかりの蝉の鳴き声だけが、その暗闇に響き渡らせていた。
少し前の出来事を考えることを遮るかのように、延々と。

何を考えてみても堂々巡りだった。
目の前で起きたのは紛れもなく人身事故で、逃げ出そうとしたその場でみたものは紛れもなくその事故にあったはずの本人の姿。
だけど、その本人は当然ながら生きているわけもなく。
その答えが結びつくものは信じることのできない存在を指すのだった。

ふぅ、と、一度深いため息をついてみる。
先刻、呼吸をするのも困難になるほど走り続けた時よりもだいぶ落ち着いていた。
走れなくなってもつれた足が、困惑した意識を現実に引き戻したのだ。
ジーンズ越しとはいえ、地面を擦れた膝はじんわりとした痛みを感じさせる。
しばらく息を整えるまで倒れこんでいたのだが、意識がはっきりしてきた後に立ちあがりとりあえず家に戻ろうと考えた。
しかし、家に帰るにはあの踏切を通るしかないと気付き、またその足をとめた。
永遠にここにいるわけにはいかないとは分かってはいるのだけど、やはり今すぐあの場に戻ることはできず、とりあえず夜が明けるのを待とうという決断をする。
壊れかけたベンチに座りとりあえず待ってみるが、何も考えずにその場にいることは到底できない。
頭を巡るのは事故と幽霊のことばかりだった。

そういえば、幽霊なのに足があったな。

考えても仕方ないと思うまで散々困惑した揚句、一息ついて思ったのはそんなどうでもいい事で、あまりの間抜けさに自分を嘲笑った。
それがどうしたというのだ。
今までの幽霊だなんてもの、見たこともなければ信じたこともなかったのだから、足があったってなくたって大したことじゃない。
それだけ自分は困惑しているのかとまた深いため息を漏らす。