乾きを覚えて目が覚めた。
痛いくらいのその感覚に顔をしかめながら、体を起こす。
水を求めておぼつかない足取りで闇に埋もれた自分の部屋を彷徨った。
もともとはっきりとしない視界のなか、感覚だけで障害物を避けて部屋に置いてあった小さな冷蔵庫に手をかける。
あふれた光がまぶしすぎて硬く目を閉じると、手探りでペットボトルを探し当てそれを口に含んだ。
まだ半分夢の中だった意識がその冷たさに少し反応する。
飲みかけだったそれを空にすると、一日何も口にしないでいたお腹が刺激され、少し空腹感を覚えた。
思考がうまく回らない。
ふ、と側にあった電子時計の光が目に入った。

深夜2時。

ぴったり揃った数字に少し不気味さを感じる。
丑三つ時、怪談話でよくあるその言葉が頭をよぎった。

『夜にこの場所で会いましょう』

悪寒とともに彼女の声が聞こえた気がした。
普段、怪談などの話を信じることも恐れることもなかった自分が、逢瀬のような彼女の言葉に震えが止まらなくなる。

『貴方が来るのを待ってる』

恐れる反面、リピートされる彼女の声は澄んでいた。
それは自分のなかで美化されたものなのかは分からない。
ただ全ての意味をもって彼女を意識する自分がいるのは確かだった。

しばらくの間、空のペットボトルを離さないまま過ぎていく時計の数字をぼんやりと眺めていた。
頭を巡ることは相変わらず昨日からずっと思っていたことばかりで、その答えや理解は結局分からないまま。

彼女の存在。
理由。

そして視線が絡んだあの一瞬のこと。
忘れることが出来ないのはとっくに分かっていた。

行ってみよう。
震えは、少し治まった。

保障はなかったが、直感がモノを言った。
必ず会える、あの場所で。

ゴミ箱にペットボトルを投げ入れ、眼鏡を鷲掴むと、勢いに任せて部屋を飛び出した。
階段の下の部屋からは、いつもと同じように人の気配は感じられない。
そんな空虚な家を後にして、電灯の光もおぼつかない夜の道へと身をおいた。

何を知ることになるのかは分からない。
怖さももちろん手放せてない。

だけど、不思議とその場所へ行くことに躊躇はなかった。
気持ちだけが急かされて、いつの間にか早足で夜の踏切へと向かったのだった。