意を決したように彼は足早に近づいてくる。
私は待ちきれず、思わず踏切から一歩踏みだそうとした。

だけど。
進まない、というより進めない。
先が見えているのに、進めない。
壁が立ちはだかるというよりは、道がない、という方があっていた。
一歩踏み出すことができない。

困惑するなか、彼はとうとう踏切の前まで来ていた。
立ち止まろうとせず、ただ踏切を越えていこうとする。
目の前にいるのに、私に気づかない。昨夜のように、視線はからまない。

焦った。
希望だと思っていた彼が、そうでなくなるという絶望をすぐそばで感じて今までで一番恐ろしい感覚に襲わる。

無我夢中だった。
触れられるわけがない彼の肩にすがりつくように手を伸ばして。
「夜にこの場所で会いましょう」
気づいたらそう叫んでいた。
無意識で、夜に賭けた自分が居ることを知った。まるで言い訳のような賭け。
だけど彼が一瞬、その呼びかけに答えたように息を呑んだのが分かった。
この声が届いたの?
不安は拭いきれないまま、彼に言葉を残す。
「貴方が来るのを待ってる」

彼は踏切をでて、立ち止まった。
振り返るか迷っている彼を見て私は確信する。

彼にはまだ希望があると。

ごめんね。
怖い思いをさせて。
だけどお願い。
あたなだけが救いだから…。