左の壁に沿ってベッド。右奥には勉強机。右中央には低いタンスがあり、その上にテレビ。その足下には、乱雑したゲーム機。何時も見ている佐藤の部屋だ。
 彼が、何の事も無しに、ベッドの上に置いてある人型の目覚まし時計や、照明の紐に付いてある猫型のぬいぐるみを弄くり倒していると、「またあ!」佐藤が牛乳の入ったコップを抱えて入ってきた。
 佐藤は、キッチンから直接部屋に来る。キッチンと佐藤の部屋は、ガラス戸で繋がっていた。
「ああ、ごめんごめん」
 彼は平謝りすると、コップをひとつ受け取って、ぐいぐいとそれを飲む。
「あぁーっ、上手い! やっぱり牛乳だよな。よし、やろうぜ!」
「うん!」
 そうして彼等は、テレビにゲーム機の本体を繋げると、レーシングゲームを始めた。



 そうして、二時間ばかりゲームをして、気付けば六時を過ぎた辺り。
「もうそろそろ母さんが帰ってくるから、止めよう。この頃五月蝿いんだ。勉強しろ、勉強しろって。憲広の所はどう? 五月蠅くない?」
 佐藤は、涼しそうな青のカーテンを閉めながら、彼に問う。夕暮れが、それによって完全に遮断される。
「いや、あんまり言われないな。それよりさ、また絵を描いたんだ。見てくれるよな?」
「うん。勿論! 今度は何を描いたの?」
 佐藤は、目をキラキラさせて彼を見た。彼も笑顔になり続ける。
「いや、大した事無い。単なる静止画だよ。もっと描かなきゃな」
「なんだよぅ。この間なんて、そう言って滅茶苦茶上手かったじゃないか。もうその手には乗らないよ」
「……ばれたか。今までで一番の出来なんだ。あんな狭い美術室で模型を視て描くよりも、断然上手くかけるね。先輩はギャーギャー騒いでるし、全然集中出来ないんだ」
「そうなんだ……! あ、もう六時半だよ? 帰らなくていいの?」
「ああ、やべっ! て言ったって、すぐそこだからな。じゃあまた明日の七時半ね。下に集合」
「って言って遅れるんだから」
「ああ、ごめんごめん。明日は必ず行くよ」
 彼はそう言うと、白の学生鞄を肩に掛け、扉を開けて玄関に向かう。佐藤もその後をゆっくりとした足取りで追う。